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かなでと申します。松山ケンイチとオリジナル小説のブログです。要するに日々の萌えについて綴ってます。メールはkenkenken10305あっとまーくyahoo.co.jpまでお気軽にどーぞ☆


by sora10305
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かなでの妄想小説『ザムザ 言葉の王国』 第8話

かなでの妄想小説『ザムザ 言葉の王国』 第8話_a0131401_694016.jpg

創作・・・というか妄想小説『ザムザ 言葉の王国』です。
呪術が飛び交う、ファンタジーなお話。ザムザ=松山ケンイチ、で読んで下さいな。

いまさらだけどタイトルに「くぐつ師」って入れればよかったなーー
あ、上の絵が何かは、8話を読むとわかります!!

感想&ご意見随時受付中です。よろしくお願いします。m(..)m
前の話はここから↓
ザムザ 言葉の王国 第1話
ザムザ 言葉の王国 第2話
ザムザ 言葉の王国 第3話
ザムザ 言葉の王国 第4話
ザムザ 言葉の王国 第5話
ザムザ 言葉の王国 第6話
ザムザ 言葉の王国 第7話




ザムザ 言葉の王国

第8話

「あ、ゆきちゃん、あの、い、いいから、私、平気だから・・・」
私が噛みつきそうな勢いでザムザを睨みつけていたので、文枝は焦って、宥めるように私の肩に触れてきた。
なに、大丈夫って、どういうこと?私には彼女の言う意味がわからない。

それと同時に、なんでこんなに腹が立つんだかも、よくわからない。

ザムザはそんな私を鼻で笑う。
「目線で噛み殺そうっていうのかい?」
とりあえず、私は怒っているのだが、相手にはその怒りは全く伝わっていない。奴は私が熱くなっているのを完全に面白がっているとしか思えない、小馬鹿にしたような、冷めた笑いを含んだ目で、私を見下している。

両手は戒められたままだ。ティッシュでも引っ張り出すみたいな気楽さで、手首を掴まれているのに、私はその手を振りほどくことができない。それどころか身動きができない。まるで自分の体に謀反を起こされたみたいだ。

文枝は私の肩を揺すぶる。
「ゆきちゃん、そ、その、女の子だから・・・その人じゃないから・・・」
文枝はますます動揺しているようだ。多分、こんな風に、誰かに対して激しい感情をむきだしにする私を見たことがなかったのだろう。

それもそうだ。私は普段は、人に対して激しい気持ちなど抱かない。プラスの感情も、マイナスの感情も。他人のことは、他人なんだからと思って、なんとなく受け流す。でも、激しい感情がないわけではない。あらゆることを割り切って、受け流して生きているつもりでも、実は激しい感情のマグマって体の奥の奥に溜まっていくものらしく、それがごく稀に、自分でも制御不能な激しさをもって、噴出してくる。

私はもはや誰に対して怒っているのかもよくわからなくなってきた。

「フミちゃん、違うでしょ!今言ってたじゃん、こいつ。この女の子の中にいたって。平気じゃないでしょ!」

「あ、えっと、ゆきちゃん、落ち着いて?」

落ち着いてと言っている彼女がむしろ気の毒なくらい動揺しているのを、肩越しに感じる。

「だって、そんなこと、ありえないでしょ?冗談でしょ?ひとの中にいただなんて」

”ひとの中にいた”
ああ、確かに。ありえない、という言葉を反芻する。着ぐるみじゃあるまいし。
言われてみればその通りだ。ひとの中に、人が入れるわけがない。

「いや、そうでもねぇよ」ザムザが言う。

「え?」

まただ、なんだろう、思考の中に入ってこられているみたいで、とても不快だ。

ザムザは目を細めた。「でもなぁ、人の中に入るだとか、やらしいよなぁなんか」

「は?」

何が言いたいんだ、この男は?

そのときふと、視界の斜め下に、場違いに黄色いものが見えた。場違い、というのはこの場が薄暗いからだ。すべてが緑色がかった闇の中に沈んでいて、物事が鮮明でない中、その黄色だけが浮かび上がって・・・
違和感を感じる。

さっき、日本呪術師協会だとかっていう人たちがいたときって、この部屋はこんな緑色がかった薄闇で包まれていたっけ?もう少し明るくて、軽い空気の中にいたような・・・

・・・まあいい。その前に、黄色いもの、の確認をしなければ。

私は首をほんのちょっとだけ動かし、ザムザから目線を引き剝して、(文字通り、引き剝がすといった感じだった。これほど意識的に、視線を逸らすために首を動かしたことなどなかった。日頃、私たちはどれほど無意識的に自分の身体と接しているのか、ということを自覚させられた)床を見やった。

蒼白な顔をして革のコートの上に横たわる少女。真っ黒な綿素材のワンピースの長い裾がふんわりと広がっている。その、ちょうどお尻のあたりから、何かがひょこっとでていた。それは黄色というより、こがねいろに近くて、やたらとふさふさしている。書道の筆のような形と質感の、いやもっと柔らかそうな感じだろうか。
ああ、と私は気づいた。彼女の髪の色とおんなじ色だ。

いや、ああ、じゃない。今一瞬納得しかけたが、そういう場合ではない。さっきの「着ぐるみ」じゃないけど、何故だか、ありえないことを、そのまま受け入れようとしすぎている。文枝に「ありえないでしょ?」と言われるまで、それがありえないことだと気付きもしなかったのだ。これは危ない。

・・・でも、だとしたらあの少女の目つきとか、口調はなんだったんだろう?真似してる、では済まないくらい、ザムザそのものだった。第一、園田とかいう男があんなに近くに来ていながら、私たちを見つけられなかったこと
についてはどう説明すればいいんだろう?そう、少女の額から30センチくらいのところまで接近していたのに。見えてなかったとしか考えられない。

あの緑色の光が原因に違いない。とか、あのときは何の疑いもなく思ったが、何が「違いない」だ。まったくわけがわからない。世間一般ではわけがわからないことは起こらなかったことにしてしまうか、もしくは神だとか悪魔だとか霊だとか妖精だとかのせいにしてとりあえずその場をやり過ごしている。

じゃあ、今身の周りで起こってることも「怪異」とかっていう言葉の中に封じ込めて、やりすごせばいいのか。そうやって、現実と切り離せばいいのか。

ぴくん、と少女の瞼が動いた。

ふい、とザムザの視線が私から外れた。掴んでいた腕もひょい、と放り出される。

途端に体にかかっていた負荷が消え、私はよろめきかけて文枝に体を支えられた。力を失って床に片膝をつく。なんなんだろう?この激しい脱力感は?

「だ、大丈夫?ゆきちゃん?」

まるで呪いでも解けたかのような・・・

「ゆきちゃん?」

ザムザの視線は少女の方に向いていた。
「なあ、そうだろ?」

「聞こえてんだろ、野良ギツネ?まあ、いい。けだものよ、眠りを眠れ、てな」

また、ぴくぴく、と少女の長い睫毛が震える。

「あ、そういや」

ザムザは少女の傍らに身を屈めた。

「こいつのこと、忘れてた」

少女の腕を取り、左手首に巻きついていた革ひものブレスレットをするりと外す。
ぱちん、と少女の大きな目が開いた。
その、零れ落ちそうに大きな瞳がザムザを見る。思いっきり不満げな表情を向けている。

「それ、わざとですよね?」

「んだびょん」

ザムザは立ちあがった。

「え?やっぱりわざとつけっ放しにしてたんですか!?」

少女も跳ねるように身を起こして、立った。さっきまで気を失って倒れていたとは思えないくらい、軽い所作だ。
顔色が悪かったのも、すっかり元に戻っている。

ザムザは私たちの方を向いた。

「こいつは、まあその、なんだ、」と言って、顎で少女を示す。

「・・・なんだっけ、野良ギツネじゃなくて」

「野狐です!」

少女がずい、と前に出て、キンキンした声で叫ぶ。お尻で髪と同じこがね色の尻尾がぺちぺちと動く。
・・・動く?尻尾が?
は?という空気がその場に流れたので、慌てて少女は補足した。

「野の狐と書いて、やこ、と読みます!」

だが私たちはますます混乱した。
じゃあ、あの尻尾は、野狐、のコスプレなんだろうか?動くなんて、まったくよくできている。
ザムザが少女の後ろから付け加えた。

「ま・・・つまるところ、俺の下僕だ」

少女の眉が吊り上がった。

「そ、そういう言い方はやめてくださいって、いつも・・・」

「うるせぇ、だまれ、下僕め」ぴしゃり、と制される。

「ちょっと!!!!師匠!!」

「お師匠様、だろ、野良ギツネ」

と言って、ザムザは少女のこがねいろの髪を束ねている、深緑色のシュシュを掴んで引っ張った。

「いったぁ!!!」

「ほら、言えよ、お師匠様って」

「やめてくださいよ!!!はなしてください!!」

「聞こえねえのか?オンボロギツネ?」

「いやーーー!!!わかりました、言いますよ言いますって!!」

「あ?なんだ、その態度は?」

私たちはぽかん、として、ふたりのやりとりを見ていた。

「で?」

いきなり、何事もなかったかのように、ザムザは私たちの方に向き直った。

正確には、文枝の方に。

野狐、の少女は床にぺたん、と座り込んで、なにやらぶつぶつ独り言を言っている。

「さっきの、忘れてねえよな、ねえちゃん。話す気になったか?」

文枝は、困惑顔で返す。

「・・・え、あの・・・」

「あ、悪ぃ」ザムザは眼尻のあたりを掻いた。

「言ってなかったな。何をって。そう、俺が知りてぇのは、塗籠の鍵言葉だ」

文枝の表情が一瞬にして凍りついた。

ぬりごめ。そういえばそんな話をしてたっけ。呪術師協会の乱入で、忘れかけてたけど。でも鍵言葉って?
言葉で錠を解き放つことができるとでも言うのか?

しばらく間をおいて、文枝はわずかに首を振った。

「今、すぐにはお答えできないです。・・・でも」

ザムザはまるでその答えを予測していたかのように、口の端上げて、にやりとした。

「・・・んだびょん」

文枝は消え入りそうな声で、ごめんなさい、と言った。

「その気になったら、連絡くれ」

言いながら尻ポケットからあの真っ黒な名刺を取出し、人さし指と中指の間に挟み、す、と文枝に差し出す。
文枝は一瞬、視線を上げて、ザムザと目を合わせた。
それから、小さく頷いて、名刺を受取った。
ザムザはひらひら、と手を振った。「じゃ、お開きだな」
帰れということらしい。

そのとき、文枝に渡された名刺は、レストランでお盆に載せられて出された名刺と同じように見えたのだが、実は違う住所、違う電話番号が書かれていたということを、私は後になって知ることになる。

狐の少女が建物の外まで送ると言い出した。見送りなんて、いいです、と断ると、ザムザは馬鹿にしたように「出れるもんならでみやがれ、自力で」と言った。
少女が説明する。
「入ることはできても出ることはできません。案内人がいないと。そういう結界なんです。いちおう、専門用語では『ねずみとり』っていいます。さ、行きましょ」

彼女は言い終わると、私たちを促した。
結界?案内人?ねずみとり?
・・・少女にいちいち説明を求める余裕はなかった。

最後に部屋を出る私が扉を閉めようとすると、扉の合間からザムザの手が伸びてきて、がし、と押さえられた。
ザムザの目がこちらを覗いている。

「他人と、自分の違いって、なーーんだ?」

突き刺さるような鋭さと、底知れない深さを併せ持った漆黒の瞳で見据えられる。その目は私を嘲笑っているかのようだ。

私は言葉を失って立ち尽くしていた。

ザムザは私の反応を待たず、顔を引っ込めて扉の合間から手を抜いた。

重い音と共に扉が閉ざされた。

他人と、自分の違い?
・・・まったく、わけがわからない。


階段の幅が狭いので、私たちは一列になった。先頭に立って階段を降りる少女が言う。

「でも大丈夫ですか?師匠ってば、カタギの方にばっちり瞳術浴びせちゃって。あれ、あたしでも結構辛いんです。どっか、変になってないですか?」

カタギ?ドウジュツ?
でも何故だか、あえて突っ込まなかった。もうこれ以上、変なことに関わるのはごめんだ、という心境だったのかもしれない。はっきりしないけど。
そういえば、少女のお尻からもう尻尾は生えてなかった。・・・簡単に着脱できるらしい。

「私は、大丈夫。フミちゃんは?」

文枝も大丈夫、と答えた。

とりあえず、少女に聞きたいことは山ほどあったが、何から聞いていいのかわからなかった。なのでこんな質問をしてみた。
「あの・・・師匠・・・ザムザ・・・さんって、どういう人?」

少女はふと足を止めた。すぐ後ろを歩いていた文枝が、思わず彼女の背にぶつかりそうになった。私も文枝にぶつかりそうになった。

「・・・うーーん、パチンコと、麻雀が好きです」
・・・いや、そういうことを聞いてるわけではないのだが。

「あ、あと、」少女はぽん、と手のひらを打って、私たちを振り返った。

「意外と読書家です。この前、ホテルにあった聖書を貰ってきたとかで、なんか熱心に読んでたし、あと、大好
きな絵本があって・・・なんでしたっけ、題名忘れちゃいました」

私は、そうなんだ、とだけ答えた。

「それからあたしは森崎静穂っていいます。よろしくお願いします」

満面の笑み。
そのとき気づいた。この少女、あの、名刺を持ってきた、レストランの店員さんだ。
髪の色が違うけど。店員さんの髪はこういう金髪みたいなのではなかった。ってことはこれは、コスプレ用のカツラ?


手を振る静穂に見送られながら、私たちは無事、元の世界に戻ることができた。
腕時計を見ると、まだ、レストランを出てから1時間も経過してないことが分かった。1日分の出来事を早送りして1時間に詰め込まれたみたいな気分だった。

私と文枝はカフェに行って、他愛もないおしゃべりをして、夜ごはんは食べずに別れた。何故だか、ザムザ中心とした奇妙な出来事たちには、あえて触れないようにしていた。
私も文枝も、そのことばっかり考えていたし、しかもお互い、相手もそうだろうな、とわかっていたのに。

電車に乗って、地元の駅で降りると、耳障りな鳥の声がざわめきの塊となって耳に飛び込んできた。夕方から夜にかけてはいつもそうだ。改札を出てすぐのところに生えている1本の樹に、椋鳥が鈴なりになっているのだ。通りすがりの人々が「え、あれ鳥?」「超いっぱいいるし。やばくない?」とか言っているのが耳に入る。沢山の羽音と、耳を覆いたくなるくらいの音量で響きわたる鳥たちの鳴き声と、木の中や外で蠢く無数の影とが、なんともいえない瘴気を醸しだしていた。

ちょうど、椋鳥の生る木を見上げたとき、ばさばさ、と1羽の鴉が飛来してきた。その辺でゴミを漁っている鴉とは違って、立派な翼をもった、大きな鴉だ。体を覆う羽根は闇夜よりも深い黒だ。脇に立つ電燈の白い明かりを受けて、その体は艶やかに光って見えた。

鴉は威嚇するように、椋鳥たちに向って鳴き声を上げる。鳴き声だけは普通の鴉と同様だった。椋鳥たちは騒々しく喚き立て、空気を掻き乱して次々と飛び去っていく。騒々しさが一段と増したので、多くの通行人たちがその光景を見上げていた。

よく見ると、鴉には足が3本あった。
だが、それを見ても特段驚きもしなかった。
もはや自分も、その時にはあっち側の人間になってしまっていたのかもしれない。

それから、ひとつ重要なことに気づいた。
何故かいつもと違う道筋で帰路を辿った。自転車で、いつもは通らない牛丼のチェーン店の側を通ったとき、店の入り口に貼ってあるポスターを何気なく見やった。「深まる秋味、 きのこ牛丼」と書かれた赤い文字の下で、そのきのこ牛丼を持ってうれしそうにしている若い男。

私は思わず、その前で自転車を止めた。
・・・この人、ザムザにそっくりだ。これに無精鬚を生やせば、完璧。
違う、ザムザが、この人にそっくりなんだきっと。会ったときから、誰かに似ているとは思っていたけど。

でも、この人、なんて名前だっけ?俳優だってことはわかるが・・・
ふと、店に入ろうとしていたおじさんが、私に不審気な視線を向けていることに気づいたので、慌てて自転車に乗り、その場を去った。
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by sora10305 | 2009-08-23 06:10 | 小説『ザムザ 言葉の王国』